僕がオナニーをやめた理由、僕が生きる、理由

誰だってあるだろう?今自分が必死になって何かにしがみついてるって時が、異邦人によって今にも開け放たれようとするドアをがむしゃに押し止めようとしている時が。
恐い夢を見たときなんてそうだ。ゾンビが後ろから迫ってくる。必死になって逃げて、逃げて、とうとう行き止まりに追い詰められる。でも大丈夫。だってこれは夢だって知ってるから。いつだってそう。ちゃんと都合よく覚めるもんさ。ほらこいよゾンビ。かじりついてごらん?そうやって悠悠自適に構えていたら、あれ噛まれたぞ?痛い、痛い、おい、終わるんじゃないのか?なんで続きがあるんだ。どうしてだ?夢じゃなかったの?
スイッチを押さないまま放置し続ければ、いずれ劣化して壊れてしまう。カチカチやっても明かりはつかないままで、壊れたことに気付かないままで。僕は部屋のライトを点灯しようとしたけれど、何度押しても反応はなかった。
僕はずっとスイッチを見ていた。押すのなんて簡単さ。立ち上がって、数歩あるいて、右手の人差し指を無造作にかざして、ちょこんと押してやればいいんだ。やり方は知ってる。アフォーダンスだ。ジョジョの作者の短編集に登場する死刑囚に似ている。死刑が確定して刑務所で執行が始まった。だが囚人がいるのは死刑台ではなくて普通の部屋だ。でも違う。いたるところに死刑執行のための罠が仕掛けられている。いくつもの罠を体中を傷つけながらも回避した囚人は、とうとう壁をやぶり、牢獄の外の風景を眺むことになる。手を伸ばせば届く距離に、夢にまで見た外の世界がある。自由が。しかし囚人は伸ばした手を引き戻す。そうだこれも罠だ。外へ出た瞬間にギロチンが振ってきて終わるって寸法なんだ。そして囚人は数十年をそこで過ごし、老人になってもまだ、手の届く距離にある自由を、しかし決して触れずに眺めながら過ごしている。老人には出来なかったが、僕はその牢獄を突破することに成功した。運がよかったんだと思う。それとも勇気のおかげかも。でも知らなかった。この物語がマルチエンディングだなんて。恋愛アドベンチャーゲームなんかは大概そうだけど、メインのシナリオは全ヒロインキャラ共通でも、エンディングをどのヒロインと迎えるかは、それぞれ違ってくるし、エンディングの内容もまるで違うものになる。僕はどこでフラグを立て違えたか知らないけれど、なんだか奇妙なエンディングルートへ抜けてしまったみたい。このゲームは一度エンディングを迎えたらもう終わりなんだ。あとはそのエンディングのスタッフロールを見ちゃえば、することも考えることも何も残っていない。リセットボタンがないことはすでに確認済みだ。スタッフロールが始まった。画面の上を記号たちが錯綜していく。知らない名前ばかりだ。誰だよこいつ。バッドエンドならスタッフロールが流れるはずがない。ということはこいつは正規なルートってわけだ。ああ、スペシャルサンクスの名前が流れたよ。もうすぐ終わる。終わってしまう。


はは、いつもみたくポエム風味で書いてみたけどいまいちノリが悪いや。路線変更だ。


8月の終わり、ファッションヘルスというやつに行ってきた。性風俗を利用するなんて以前の僕からは想像もできない。でも僕は行った。追い詰められたからだと思う。適当に散財したあと、冗談でなく、死のうと思っていた。方法は流行とはちょっと違う。練炭自殺みたくあまり人に迷惑をかけずにひっそりなんてのとは真逆で、車を飛ばして派手に崖を突破しようと思っていた。前のブログに書いたけど、過去に一度居眠り運転で反対車線に突っ込み、対向車と正面衝突して死にかけたことがある。僕はその続きをやろうと思っていた。あの時止めたままの一時停止ボタンを解除しようと思っていた。


それより少し前、お盆には友人たちが帰郷してきた。以前みたいに集まって麻雀をした。ファミレスへ行って近況報告をしあった。自慢じゃないが友人たちは僕の誇りでもある。みんな明るくて、前向きで、こんな僕とも気兼ねなく付き合ってくれ、僕は仲間内ではちょっとしたギャグ担当だ。彼らは僕のくだらない下ネタジョークにさえ、笑ってくれる。まだ彼らが地元にいた頃、僕はニートだけど彼らは仕事をしていたり、将来の準備だったりで、昼間は遊べない。夜になると、電話をしてくれ、誘ってくれ、毎日麻雀をやった。僕は彼らに麻雀を教わった。


友人の一人はアニメーターを目指して大学へ行っている。普通の人よりちょっと年齢的に遅れているのは理由があって、海外留学をしていたからだ。でも同じ学年の、昔から同人とかやってるセミプロたちには絵の技術では歯がたたなくて、今はちょっと路線変更をして、コンテンツプロデューサーを目指しているようだ。彼は海外留学・放浪経験を生かし、英語にも長けていて、それを生かしてがんばっているようだ。アニメ技術よりも英語に重心を移した特進クラスみたいなのに入れたらしく、毎日難しい英文ばかり読んでめまいがすると言っていた。彼の学校はちょっと変わっていて、いろいろな年齢層が生徒としているらしい。同じクラスに38歳のOLとかもいるみたい。あと21歳の若手実業家とか。とても楽しそうだった。彼には最近彼女が出来たそうだ。写真を見た他の友達はたいしたないって言ってたけど、本人は彼女は写真写りは悪いけど実物はめちゃかわいいと力説していた。ところでどうして僕にはその写真とやらを見せてくれないんだ?君なりの優しさかもしれないがちょっと傷ついた。いや、ただ機会も理由もなかっただけで僕の妄想かもしれないけれど。彼にmixiに誘われて一度数日日記を書いたことがあったけど、気が向かなくなって放置していたが、やめていてよかった。彼はmixiを利用して彼女との親睦を深めているようだ。そんなところへ僕がのこのこと足跡を残すわけにもいかない。彼は他の友人よりも数日遅れて帰郷してきた。彼女との初デートだったそうだ。水族館・映画館・そしてホテル。なんだよそれ、うわぁうらやましいなぁ。俺もいつかやってみたいもんですよ。その子は男性と付き合うのは初めてだそうだ。そっか、ヴァージンか、大切にしろよ。


友人の一人は声優を目指している。こいつは僕らよりも年齢がちょっと下だ。高校生のときにそれまで全くノーマルだったくせに、AIRとかデジキャラットとかそういう方へ走っちゃって、それが嵩じて今に至るようだ。そいつも彼女がいる。こっちはもう半同棲みたいなもんで、毎日やりまくってるそうだ。やってる最中の実況中継とか悪趣味なこともやってるようで、別の友人から間接的に聞いた。なぜ俺にはその話を直接していない?


友人の一人はニート卒業して大学へ行っている。他の生徒とはずいぶん年が離れているけどとりあえずうまくやっているようだ。女の子からxx君てもてるでしょ?と聞かれたとはしゃいでいた。楽しそうだな。ずいぶんと。物静かなやつだったが、今ではカラオケに行ったり飲みに行ったりしているらしい。


俺は知らない。お前らが知っていること何もしらない。女の子って柔らかいのかな?キスするときって頭の中が真っ白になるって本当なの?二人でホテルのベッド目の前にしてさ、お互い緊張してさ、何か場つなぎの話題はないかって必死んなって頭回転させるときってどういう感じなの?ベッドの中ではさ、どうなの?舌めいいっぱい出してさ、体舐め合って、からめて、密着させて、自分の欲望と相手の欲望が一致してるってどんなに快感なの?自分の欲望全部曝け出そうが、全部相手が受け止めてくれて、レスポンスがあって、何かもが自由で何もかもが快楽な世界ってどんなのかな?楽しいでしょ?一人より二人で、しかも女性と食べる食事ってどんな味?食事終わったあとさ、「僕にはまだ最後にとっても甘いデザートが残ってるんだ」なんてセリフいっちゃったりするの?調子乗りすぎでしょ!二人で生きていくのって、どれだけ心強いの?何回面接で蹴られようが、どれだけ困難な仕事だろうが、けっこうぺろりと克服できちゃうんでしょ?朝目が覚めたら隣に女性がいるのってどんな気分?そうして寝顔見つめてたらさ、彼女目を覚まして、視線に気付いたあと急に慌てだしてさ、化粧台へ向かっていって、こっちみないでよ、なんて照れながらいうのかな?きれいでしょう?彼女の顔、化粧なんかしてなくても、十分きれいなんでしょう?そりゃちょっとしみがあったりするけど、そういうのも自分のために毎日毎日何十分も化粧台に向かって手入れしていることを考えるとものすごい幸福で満たされるよね?あなたは彼女ために働いて、いろんな資格とって、スキルゲットして、男としてもサラリーマンとしても順調に階段を登って行く、途中で踏み外そうが、ちゃんと支えてくれる人がいる。彼女はあなたのために、気が早いひよこ倶楽部読んだり、他の男の視線を上手に避けたり、エステいって、磨いて磨いて、どんどんきれいになって。この世の全ての幸せが、全ての快楽が、毎日毎日夜になる度にひとつになる。ねぇどんなの?二人で一緒にベッドから起きて、朝一番にカーテンあけたあとの窓の外ってどんな色?どんなにおい?時間を遵守せずに放置されたゴミ袋がカラスに漁られてる。そこの前を通るときにちょっと顔が歪んだね?でもどうして?すぐにあなたは笑顔になる。いつもそう。笑顔になれる。僕は何も知らない。幸せなことなんて何一つない。僕が持っているものなんて何もないんだ。本棚に並んだいかめしい専門書の山が壊れていく。全部砂になっていく。頭の中にある全ての技術情報が腐臭を放ちだす。/etc/passwdのエントリの順番は確か…。うへぇpamはややこしぃなぁ。画像圧縮したいときってapacheのどこにフック仕掛けりゃいいんだっけ?正規表現実装するのってこんなに簡単だったの?オートマンなんて知らなくてもできるじゃんへへん!ありゃりゃ扱うデータ増やしたらハングしちまった。ああ!!!くだらない!!!何の意味もない…。誰もいない。誰も手をさすってくれやしない。痛い、痛い。痛いってなんだよ?それ人を呼ぶためのシグナルだろう?あなたを大切に思ってくれる人をあなたに近づけるためのシグナルだろう?俺はプログラマなのに自分のシグナルハンドラにはタッチできないなんてなんて皮肉なんだ?おっ、とりあえずソースファイル見つけたぞ。あれ?なんだこれ、ただprintfしてるだけじゃん。あとはただのループかよ。神様が手抜きしやがったな!俺が一番辛いのは、あいつらが憎くなんてないことなんだ。手をつないで目の前を横切るカップルたちが、みんな幸せそうにはにかんで歩いているあいつらの誰一人とて、憎しみが湧いてこない。いくら文章でタンカきろうが、目の前に展開される世界を応援したくなってくる。この世界が一つでも多く笑顔で満たされることを心の底から願っている。誰にも不幸になって欲しくなんてない。俺はこぼれてるんだ!とっくにふるいにかけられてすり抜けたんだよ!なのになんであいつらを恨むことが許されないんだ?台所に駆け込んで、包丁取り出して、あいつらの一人一人をぐさぐさ刺してしまわないのは何故なんだ?知ってる。わかってるんだ。俺は道具だ。どこのオブジェクトにも所属させてもらえないヘルパー関数なんだ。幸せな奴らが俺を見て、俺の記事を読んで、「ああ、こんなにも不幸な人間がいるんだ。俺なんてまだましじゃん。あいつにもさっきはひどいこといっちゃったな。仕事を一つ増やそう。それだったらガキの一人くらいなんとかなるさ。今すぐ行こう。ベビーカー買ってあいつに会いに行こう。あいつどんな顔するかな?」って思ってもらうための道具なんだ。俺は他人からの比較対象としてのみ存在するんだ。中学のときに出会った名文をおぼろげに覚えている。「美人美人というが、なぜ美人が美人なのかといえばブスがいるからだ。ブスを見て美人を見るから美人は美人なんだ。」。優秀な人間がより優秀な種を残すための、種をもたない奴隷。奴隷ならいっそ檻にでも放り込んでくれればよかった。でもだめだ。奴隷は檻の中にいちゃだめなんだ。それじゃぁ効果的じゃない。奴隷は普通の服を着て普通の環境におかせないとだめだ。そうすることで優秀な奴らとの差が際立つってもんだ。「見てみろあの顔、お笑い種だね!あんな顔なくせに着ている服は流行色ときたもんだ!ぶははははは。真顔でこっち向かって話題ふってくんなよ!こっちだって一応普通に対応してるけどな?腹の中はへそが茶沸かすのでおおわらわなんだよ。はははは。おい!いいよおまえはもう!こっちはこれからこの女たちとパーティーなんだよ!お前は料金の負担回避と俺の株を上げるためのエサなんだよ!おまえだってわかるだろ?魚釣ったのに針にエサが残っていたら邪魔だろう?捨てるだろ?捨てて取り替えるだろ?はいはい帰った帰った。この子マンコどんな味かなぁ?この前の子はずいぶんだったからなぁ。おっとヨダレが、なんちって。」。俺はどうすればいい?ちっぽけで何の力もないんだ。持たされていないんだ。最強伝説黒沢の最終回にあったワンコマ。生まれつき違うんだ。牌パイが違う。配られたカードが違うんだ。これはブタだ。勝てやしない。だからって逃げちゃだめだ。社会はそれを許さない。俺たちは戦って負けなきゃならない。イケメンたちのポイント稼ぎのためのスライムにならなきゃだめなんだ。それが理由。俺たちが存在する理由。


いや、まぁ、そんなこんなで俺はヘルスに行ったんだ。雀荘とちょっと離れた所に案内所がたまたまあってさ。そこの優しそうなおっちゃんに割引券発行してもらってさ。送迎バス呼んで貰ってさ。行ったら他の女性はみんな客の対応してて、今空いてるのはこの一人だけだって写真を見せてもらった。顔の部分はシールが貼られてて隠されてるんだけど、すごく薄くて露出の多い衣服だから体つきや肉付きなんかはよくわかる写真だった。名前はまゆって書いてあった。これが源氏名ってやつか。年齢は19歳だって書いてあった。まぁ、こういうのは結構偽りだろうから実際はもうちょっと上なんだろうけど、でもすげぇ肌がきれいだった。何年も何年も、ディスプレイの向こうに、アダルトビデオの向こうに夢見た世界が今目の前にあるのだとの予感があった。ビデオの中で展開されたいろいろなプレイが頭を駆け巡った。本番はだめらしいけどそれ以外は大抵オーケーらしい。どうせ包茎なんだし問題ない。本番はしなくていい。ソープなんて高くて無理だ。いつも見ていた車窓の風景、通勤しているOLや彼氏と歩いている生足が記憶から揺り起こされた。僕はたちまち勃起してきた。ビデオ見てるときとは桁違いにね。少し待たされた。まだ前の客が終わっていないのかな。5分ほど待ったら準備が出来たと従業員が呼びにきた。少し奥の通路へ入るとカーテンがあって、その手前でどうぞと奥を指差した。カーテンを抜けた。そっから先はちょっと照明が落とされていた。すぐ目の前に女性が立っていた。身長は僕よりちょっと低いくらい。僕はまず目をそらせてしまった。耐性がないんだよ女性には。相手の顔を見ることを真っ先に避ける癖がついている。目をそらすときにちらっと露出したふとももの辺りが見えた。写真で見たより艶やかだった。透明で、ちょっと赤みを帯びているような、柔らかそうな感じだった。僕は恥ずかしかったけど一万払ってるんだしってえいやって視線を正面に戻したんだ。いきなり相手の目と目があった。僕の頭を衝撃が突き抜けた。「え?なにこの子、めちゃめちゃきれいじゃん。うわぁ、そんな馬鹿な。AV女優よりレベルが上じゃないか。信じられない。なんてラッキーなんだ僕は。」て思った。その女性がどうぞって部屋のドアを開けてくれた。僕は足を少し引きずって中に入る。中はすごくキレイな部屋だった。普通の高級ホテルって感じ。奥にガラス張りの風呂場があって、その手前に大きなベッド。まず女性がベッドに座ったので、僕もとりあえず少し離れて座ってみた。女性は何もしゃべらない。僕も何もしゃべらない。しゃべれない。いいかげん我慢できなくなって、僕から口を開いた。「あの、これから何をするんですか?」。ちょっと経つと女性がやっと口を開いた。信じられない。女性が僕に向かってスピークするなんてそんな奇跡が、ああ、うれしい。本当にうれしい。「初めて?」。僕はええと答えた。なに緊張してやがるこのサルが、金払ってんだからもっと普通の恋人みたく振舞えよ!なにが「ええ」だよ。女性が続けてスピークする。「じゃぁ、シャワー浴びるから服脱いで。」ぼくはもうメロメロ状態だった。頭の中が本当に真っ白になった。今なら僕を右翼に染めることだってこんなに簡単なことはないだろう。でもすぐに思考は冷静になった。そうだ。お前やけになってヘルスきたはいいがアトピーだってこと忘れてんじゃねぇよ。服を脱ぐってことはすっぽんぽんてことだろ?お前自分の体鏡で見たことあるだろうが?それ見て誰がサービスしようなんて気になる?いくら風俗嬢だからって断る権利はあるんだぜ?どうしよう。断られたらどうしよう。だめだ。もしそんなことになったらもう立ち上がることはできない。だめだ。だめだ。出来ない。でももう金払ったし、今更帰るなんて無理だよな。まじでまいった。どうする?どうする?女性はおもむろに立ち上がると僕に背を向けるかと思ったら、こちらを向いたまま脱衣を始める。脱衣麻雀ゲームの記憶が再生される。今度は違う。アニメじゃない。実物なのだ。モザイクもない。正真正銘なのだ。信じられない。僕のペニスはどんどん大きくなっていく。今にも射精したがっているのかパンパンだ。もういいや。やってやる。なんといわれようといい。もう引き下がれない。ここで逃げ出したって今までと何にも変われない。今前へ進むことを選んだなら、俺は変われるかもしれない。構わない。女性がいやそうな態度をとろうと構わない。やってやる。やってやるぞ!僕は不器用に無理矢理自らの服を脱ぎ捨て、ズボンとパンツを同時に下ろしてカゴに放り投げた。そして女性の反応を観察した。しかし、そのとき女性はすでに僕の前におらず、置くの風呂場へと入っていって、どうぞといった。あれ?拍子抜けだな。もっと気持ちわるがるとか、電話でカウンターへコールして僕に退去してもらうとか、そういうのを想像してたけど、まいいや。ありがとう。まじありがとう。もう財布の中全部あなたに差し出したっていい。本当にありがとう。僕はおかしな話だけどものすごい幸福感で満たされた。顔面の緊張が自然にほぐれてくる。ああ、これって笑顔じゃん。ちょっとにんまりだけど笑顔だよ。へぇ、こういう表情を女性の前ですることになろうとは思わなんだ。よくはわからない。でも変化が始まっていることは確信していた。HIVに感染した風俗嬢のブログへのコメントにこんなのがあった。「若いころ風俗で筆下ろしをしてもらいました。そのことが今も私を支えています。いろいろ大変だとは思いますが、どうか心を強くもって下さい。」みたいなのだった。俺もそうなのね。そう、これが俺の支えになるのだ。別に金の関係でもいい。俺のこの醜い体を受け入れてくれたという事実だけは消えない。そうだよ、金だよ!金さえあればいくらでも女が買えるじゃないか!ホリエだってそうだろ?いい考えだ。よし、やってやる。俺も絶対なってやる。ホリエみたいになってやる。女性はコップにイソジンの原液を入れ、シャワーの水でそれを薄めたものをこっちへよこした。うがいをしろということか。なんだかとても新鮮な気分だ。僕はていねいに5回うがいをした。女性もうがいをしたようだ。そのあと女性が振り返って、いきなりぼくのペニスに指を這わせてきた。もうなんていったらいいのかわからない。感動なんて言葉じゃ言い尽くせない。僕の中で僕を取り囲んでいた軍隊の全てが一度に殲滅したような感じといったらよいか。別に包茎であることなんて気にしてない。風俗嬢はそういうのは扱いに慣れてるから気にするなとどこかでアドバイスを読んだからだ。女性は手にボディソープのようなものを塗りたくるとその手でペニスの皮を剥き始めた。おいおいやめてくれよと思ったが、なんと皮はちゃんと剥けてしまった。剥けたあと少し締め付け感があったが、それも次第に消えて、ただびんびんな感じだけが残った。で、そこへさらに指を這わしてていねいに洗ってくれた。そのあと体全体も同様に洗ってくれ、シャワーをかけてもらった。シャワーの塩素がちょっとしみる。シャワーを流し終わったあと、先に出て体を拭いてベッドにあお向けで横になってるようにいわれた。僕は大急ぎで体を拭き、スキップしながらベッドへジャンプした。有頂天てやつだ。僕はもう自分がアトピーであることなど、忘れた。少しすると女性も出てきて、体を拭き終わるとベッドへ近づいてくる。するといきなり僕の腰の上にまたがって、顔をこっちに近づけてきた。僕はアダルトビデオはたくさん見てきたけど、実はヘルスでどんなことをするかというのはあまり知らなかった。だからびっくりしたんだけど、女性は乳首をぺろぺろと舐めて始めた。舐めまわしたり、時々チュッと吸ってくれたりした。別に気持ちよくはなかったけど、僕はいっそう顔面を破綻させてにやにやしていた。リップサービスは乳首から次第におなかふとももと進んで、とうとうそのときがきた。もう僕は、なんていうか、本当に幸せものだ。この日を一生忘れない。もう大丈夫だ。もう何も恐いものなんてない。僕も戦える。これでやっと戦線に参加できる。そんな思いがぐるぐる頭の中を回る。そして、女性は僕のペニスをくわえた。ジュボジュボと例のやつをやり始めた。ビデオみた映像そのまんまだった。ちょっと照明が暗いけど距離が近いので十分肉眼で見える。女性の首から上でピストン運動していた。束ねた髪がちょっと揺れている。もう言葉はいらない。言葉なんて知らない。もういいや。ああ、もう、ほんとうに、はぁ。そして、僕の中に最大の変革が訪れた。それに気付くのはちょっとだけ時間が必要だった。でもすぐに気付いた。女性はさっきからずいぶん何回も上下運動をしているのに、僕のペニスからは何の刺激も伝わってこない。緊張のせいかな?でもちゃんと勃起しているし。締め付けのせいかなとそのときは思った。10分くらいフェラチオをしてもらったあと、キスをしてもいいかとたずねるとやんわりと拒否された。まぁいい。そういう風俗嬢もいるとは聞いていた。だめだというのを無理にするのはルール違反らしいのであきらめた。とりあえず念願の69をやることにした。女性が股を開いて頭上に乗ってくる。照明が暗くて距離が近すぎてよく見えない、あ、見えた見えた。なるほど。ビデオと一緒だな。当たり前だけど。僕は犬みたいにぺろぺろ舐めまわした。女性は演技の喘ぎ声を上げてくれた。はははすごいや。僕はマンコだけじゃなくアナルも舐めた。ちゃんと洗ってあるんだろう。別に変な味はしなかった。マンコもそうだった。何の匂いもないし、何の味もない。こんなもんか。最後にもう一度フェラチオしてもらった。裏筋を舐めて下さいと希望したらそれはさっきしたよといわれた。とにかくやってもらって。そして部屋の電話がコールされ、シャワーを浴び、イソジンでまたうがいをして、女性と手をつないで部屋を出た。カーテンの手前でばいばいして別れた。名刺とかはもらわなかった。まいいか。カウンターの男性従業員がいやらしくない笑顔で、「楽しめましたか?」と聞いてきた。僕は十分満足していたので、ええといって店を出た。夜の街を歩いていると、客寄せのおばちゃんたちが声をかけてくる。僕は金がないと断りながら雀荘を目指した。麻雀は2時間くらいやったあと、負けたんだけど一応財布には万札が一枚見えたので、もう一度ヘルスに行くことにした。確かめたいことがあった。次の店は、それっぽいのを適当に選んだ。看板にヘルスと書いてあったのでそれに決めた。これまた一人しか選択肢がなかったが、なんでもその店のナンバーワンだそうだ。相変わらず写真は顔を隠してあるが、やっぱり肌はすごくきれいだった。その女性はものすごい積極的なサービスをしてくれた。なるほど、ナンバーワンだ。リクエストしてもいないのにいきなりアナルを舐め始めたときなんて、本当にびっくりした。しかもただ舐めるだけじゃなくてなにやら舌が複雑な動きをしてくれる。でもあんまし気持ちよくない、というか俺は痔なんだ何をやっているんだこのやろうって感じだった。素股というのもやってくれた。ローションを塗りたくって乗っかってきて、腰を振っていた。これまたペニスは全く気持ちよくない。どころか何の反応もない。何かが当たっているということくらいしかわからない。その女性のフェラチオがこれまたすごかった。まさにプロってやつだった。でもね。ペニスは相変わらず全く気持ちよくない。なんでだ?何も感じない。皮をかぶせてから、今度はやってもらった。皮の締め付けが快感を疎外していると思ったからだ。でも違った。皮の上からローションで手コキしてもらったけど、今度も何も感じない。自分の手でやるときは一応射精までいくんだが、おかしい。こんなに勃起してるのに、なんでだ?その女性は名刺をくれた。なるほど、ナンバーワンだ。その日は店の営業はそこまでだった。法律が厳しくなって12時で店舗型はどこも終わりのようだ。さっきまであった幸福感は全部消し飛んでいた。なんだかあせりみたいなものが頭の中を埋め尽くしていく。雀荘に戻ってずっと打ち続けた。その店カーテンで隠して光とかもれないようにしてるけど、24時間営業している。入り口も一応施錠ぽいのがされてるけど常連なら入り方を知ってる。そこで夕方まで打って、それからまたヘルスへ行った。雀荘では一回アウトしたが(アウトというのは財布の所持金を越えて負けること)、そのあとでめちゃくちゃつきがきて、結局3万円ほど買ったのだ。その金でまたヘルス巡りで、やっぱりだめだった。ちっとも気持ちよくない。店の注意書きには抜き無制限とか書いてあるのにまだこっちは一度も射精してない。損した気分だ。で、同じ店で別の女性を指名した。今度はプレイを断って、45分間のサービス時間を全て抱擁にあててもらった。何もしなくていいからずっと抱きしめていてくださいとお願いした。そうしてずっと考えていた。奇遇なことにその女性もアトピーだといった。確かに背中に回した手を動かしてみると、皮膚のあちこちにかさぶたがあった。神様、一応僕に救いは与えてくれたわけかと思った。その女性をずっと抱きしめていた。時間が来てシャワーを浴びて、今度は別の店に向かう。そこでもずっと抱擁してもらった。キスもフェラも一切なしで。最後の一件。あんまし女性の見てくれはよくなかったが、彼女とはよく話した。その子にはフェラをしてもらった。首をかしげていた。普通の人はこれでイくよぉといっていた。僕はもう一つ可能性を考え付いていて、それは視覚だ。照明を落として暗い状況で視覚を制限されたことによって興奮度が弱まった可能性を考えた。そこで照明を明るくしてもらい。腰掛けたポーズのままフェラをしてもらって、女性の口の動きをじっと観察していた。彼女は結構な熟練のようで、ずいぶんなれたものだった。ツバをたらして、ていねいに緩急をつけながらサービスしてくれた。でもね。全く気持ちよくない。しばらくすると彼女が言った。「一人でしたりするの?いっぱいやった?童貞なの?やりすぎでしょ?」僕は「え?そんなの関係あるんですかね?」というと「さぁ?」といっていた。信じられない洞察力。そういうことだったのか。僕は全てを理解した。そのあと家に帰って一晩寝て、AVを漁ってみたが、以前の僕とは思考回路が切り替わっているようだ。ビデオの中の女性たちを見てもまるで勃起しない。手でこすってみようなんてこれっぽちも思わなかった。それ以来、僕はオナニーをしていない。一度もだ。あれだけ狂ったようにやっていたのが嘘のようだ。


正直今、途方にくれている。集中力は相当回復してきた。本を読むときもずいぶん持続できるようになってきつつある。今ならいくらでも技術力を磨ける。しまも吸収がとてもいい。なんだか一度読んだだけで結構な部分が記憶に残っちゃってるから不思議だ。僕を追い詰めた煩悩は去った。少しは以前の面影があるかと思い女を手当たり次第に目を合わせてみたりしたけど、なんともない。何も感じない。カップルを見ても、そう。なんだろう。ほんとに静かな海の波打ち際みたいな感じ。すげーしーんとしてる。よくわからない。俺は多分すごいプログラマになれると思う。だってもう勉強しかすることがないから。この状態なら朝から晩まで本読んでたって平気そうだ。アトピーのことも気にならなくなった。別に裸で歩けるようになったってわけじゃないけど、長袖とかで隠してるのを気にしなくなった。風俗嬢の人たちには感謝しているし尊敬している。世間でいわれているようなものじゃなく、誇りを持てる仕事だと思う。医療に携わる人間以上の働きをしている。


最後に対応してくれた女性に抱擁されているとき、彼女は僕の背中をときおりぽんぽんと叩いてくれた。僕はもう勃起なんてしていなかったけど、そのときすごい眠気に襲われた。時間制限があるので寝られるわけないけど、でもオナニーなんかより、よっぽど気持ちよかった。息をはぁはぁ吐いて荒く飲まれるような快楽とは違って、すっごく真っ白で、真っ暗な快楽だった。僕は生涯風俗へ通いつづけるだろう。書店へ行って、風俗へ行って、帰りに雀荘に寄る。他にはもう何もいらないや。僕の気持ち悪いペニスなんて触らなくていい。イソジンのうがいとかも必要ない。キスとかも結構です。ただ抱きしめてもらうだけのサービスで十分だ。肌はざらざらで傷だらけだけど勘弁してくれ。キスを拒否する風俗嬢はそれによって最後の矜持を保っているのだそうだ。体は売っても、心は売らない。そのシンボルがキスの拒否なのだそうだ。僕は醜い。体だけじゃなく心まで腐りきっている。社会から受け入れられないから、女性から排除されたから、女性を金で買うのだ。ここ数日は感情の振れ幅がすごく小さくなってきた。怒りも悲しみも絶望も何も湧いてこない。かといって自殺しようという気分じゃない。さっさと東京へ行こう。そしてがむしゃらに勉強して、一体何をするんだろう。