またヤクザに声かけられた

ここに到着する少し前、大きな交差点を、道を間違えて変なところ降りてしまったら、「兄ちゃん」とまた声をかけられた。昨夜のとは違うが、どう見てもカタギじゃないおっさんだ。すごく人のよさそうな表情を作ってはいるが、にじみでる悪意は隠せていない。案の定仕事をしないかという誘いだった。ただ、今回はもうちょっと情報を引き出してみようと、気のあるそぶりをしつついろいろ話してみた。いろいろ興味深かった。まず、日当は8000円だそうだ。結構普通である。てか地元の仕事よりよほど高級取りじゃないの。寮も完備しているそうだ。で、寮費が一日2800円だそうだ。つまり、差し引き5200円の一日の収入というわけだ。あほか?そんなんで食ってけるかぼけ!しかも、給料は30日ごとに支払う決めだが、ちゃんと、もう仕事の初日から給料の前貸しをしているらしい。2000円くらいを普通はみんな借りるようだ。それに利子とかつけてんじゃないでしょうね?と聞いたら、そこまであくどいことはしないと言っていた。目が笑ってないんだよおっさん。んで、土日とかには1万とか貸してくれるようだ。それで風俗かパチンコでも行けってか?ネットとかじゃあんましいい話聞かないんですが、と言うと、おっちゃんとこは本当に安全だよと何度も言った。ますますうさんくさい。で、俺が、ちょっと用事があるんで、というと、その用事の内容を聞いて、道がわからないんならついていってやるから、それから事務所いこうかといかいってきやがる。やけに親切だな。うさんくさすぎる。いつもここで声かけてるんですか?と聞くと、そうだといった。おっさんのほかにも、いかにもあれなおっさんどもが、見てみると何人も歩道橋の階段でたむろしてる。怖すぎる。おっちゃんとこがいやならほかのおっちゃんとこでもいいとか言いやがって、あほかと思った。僕はちゃんと家もあるし、家族とも連絡とってるというと、別にいやな顔はしなかった。ひょっとすると一応まともなところなのかもしれない。仕事を何日かしてみて、いやならすぐにやめてもらってかまわない。今ならワンルームの部屋が用意できるとか、とにかく、うさんくさい。逃げようとすると強引に笑顔で引き止められる。どうしても勘弁してというと、じゃあ携帯の番号交換しようとか言ってきやがった。ありえないのでこういってやった。「僕もいずれはお金が尽きて困ることになるので、そのときにお世話になるというのではいけませんか?携帯に関しては、そちらの番号だけを教えてもらって、それを僕暗記してますので、春先くらいにお世話になりたいと思います。そのときはよろしくお願いします。」って感じで。なぜ暗記かというと、携帯を出すと奪われそうだったから。結構迫力あるんだから。笑顔なのに悪い笑顔なんだよな。本当の悪党って感じだった。怖い怖い。おっさん言うには、何日か前にも放浪している26歳の若者がいて、誘ったら乗ってくれて、今もちゃんと働いているそうだ。その若者も最初は不審がってたが、今ではすごくおっさんに感謝しているとか言ってた。ほんとかよ。仕事の内容は、道路工事の際に発生するコンクリートの破片とかを回収したりする作業や、ビルのひび割れを補修する作業らしい。なぜか、兄ちゃん手を見せてといわれた。見せてやると特にコメントはなかった。なんだったんだあれは?夜はどこで寝てるのと聞かれたので、道路端とか雀荘というと、マージャン強いの?とか聞かれた。弱いよ俺は。はぁ。タコ部屋みたいな話は現代にはないの?と質問すると、あるにはあると言った。こことは別の場所でもそういう誘いがあって、そっちは本当にやばいとか言ってた。あんたがそっち系じゃない保障はあるの?と聞くと、この顔を見てや、とか言われた。悪いことする顔に見えないでしょ?という意味なのか?あんた顔も悪いけど悪そうなことしてそうな顔してるよ。なんとか振り切って逃げてきた。浮浪者が付近にはたくさんたむろしてたが、彼らにはどうして声をかけないのか?何かあるのかね。まぁ、まだ知らなくていいやそんな世界の話は。ちなみにおっちゃんの収入は寮費と、ドカタの仕事の報酬からマージンをとってるそうだ。へぇぇ、それだけでそんなに儲かるもんかね?なんかほかにもやってんじゃないの?一応携帯の番号は記憶しといてやった。必要なときは頼ってみるか。多分そのときはもう手遅れなんだろうけど。