2011-03-18

朝のテレビに速報テロップが流れた。みずほ銀行ATM取引停止とのこと。荒川智則は恐怖におののいた。このままでは家計の口座銀行からも引き出せなくなるのは時間の問題だ。急いで妻から妻の貯金用ICカードを奪取すると最寄のコンビニへ向かった。外へ出たあとミスに気づきあわててマスクを取りに戻る。いつもより慎重にマスクを装着した。もしかするともう高知までプルトニウムが迫っているかもしれない。一瞬の気のゆるみが命取りになる。コンビニに到着するとすぐに異変に気付く。ATMの前にあわてふためくコンビニ従業員と、ぼろきれのような服の女二人が口論ぎみになっている。どうやらATMの文字が読めないらしく店員に手取り足取り操作してもらっているようだ。放射能を浴びたのかもともとからなのか不明だが女二人は頭がイカレテいるようだ。荒川智則は心の中でナムアミダブツと唱えながら少し待つことにした。しかしいつまで待っても女二人の知能指数は向上せず、すぐ奥のトイレからは男性の吐しゃ音がひっきりなしに聞こえてくる。次第に不安にかられ荒川智則は別のコンビニに向かった。別のコンビニでわかったことだが、付近でATMのあるコンビニは最初の所だけのようだ。東京暮らしに慣れていたため田舎の文明の低さをすっかり忘れていた。再び最初のコンビニに戻ると基地外女たちは姿を消し、トイレからは何の音もしなくなっていた。心を落ち着けてATMにカードを入れる。向きが違うといわれ逆向きにする。まずは残高照会だ。暗証番号を入力する。1426。すると「お取扱いできません」とエラーシートが出力された。バカなー。焦る心を静めつつ再度入力してみる。しかしダメだ。真っ青になる。携帯電話を疎開先に忘れてきたため連絡を取ることもできない。いったん引き返す。妻に暗証番号を訪ねると1426は間違いであることがわかった。正しい番号を入手して再びコンビニに向かう。ATMが混雑していることを恐れたがコンビニは特に客はいなかった。ATMは三回連続で暗証番号を間違えるとロックされてしまう。取引銀行は都会の銀行のため窓口なんて田舎にはない。そんなことになったらもうお金を引き出せなくなる。慎重に入力する。エラーシートは出ずに残高が表示される。65万数千円だった。一度にATMから引き出せる額には限度があるため20万円と入力する。しかし失敗。限度額は10万円だった。さらに手数料が105円かかる。機械の反応速度の遅さにイライラしながら何度も何度も10万円をおろす。最終的に端数の千円単位で全て引き出した。ここまで徹底的にやったのは、妻のミスによりこの口座がNHKの自動引き落とし口座に指定されているためだ。荒川智則NHKの受信料を払う気はなく妻には集金人を無視し続けるよう固く言い渡しておいたが、妻が指示を守らずまんまと口座引き落としを契約してしまったのだ。これ幸いと口座を空にしておけば、NHK受信料は踏み倒せる。真摯な震災報道でNHKに一定の評価を持ってはいたが、これはこれである。財布を充足させたあとは暴徒化した市民に暴力で奪われないかとおびえながら週刊マンガを立ち読みしたあと拠点に引き返した。