2010.08.16 18:20

荒川智則には本を買うという趣味があった。自分のレベルに合わない技術書でも、それが一万円しようと、平気で給料を投じる性格だった。だからその現場に入るときにも、数万円かけて関連しそうな技術書を購入しておいた。その内容はあまりにもレベルが高く、何度読んでも飲み込めなかった。会社にもそれらを持ち込んで、行き詰まる度に開くものの、期待した理解や情報が得られたり得られなかったりだった。それでも繰り返し読むうちに、何かひとつの道のようなものが開拓される気分をあじわった。次第にそれらの技術書は聖書のようになり、いつも手元におくようになった。電車の中で、休憩時間に、寝床で、読む度に新しい発見があった。そしてそれは着実に業務に良い影響を与えていった。荒川智則は最初の仕事に打ち勝った。リーダーから指示された画面を全て完成させた。それどころか、もうひとつのアプリの画面の一部まで担当させてもらえることになった。