2010.08.16 17:58

荒川智則は社長との待ち合わせをすっかり忘れていた。もう一時間近く通らないテストケースを前に呻吟していた。デバッガを立ち上げたら負けだと思っていた。そろそろギブアップしようかと思った所に携帯のメール着信があった。フロアは携帯持込禁止だったことも忘れていた。ふと時計を見ると六時になろうとしていた。ふいに社長との約束を思い出す。慌てふためいてメールを見ると社長から待ち合わせ場所への到着通知だった。バタバタを席を立つとエレベータへ乗り込む。エレベータの中はむっとする匂いが立ち込めていた。今日一日乗り込んだ男たちの汗と女たちの香水が混ざり合うこともなく浮遊している。荒川智則は顔をしかめた。エレベータの中の鏡に映った自分の顔を見る。なんだか疲れたような印象を受ける。これからする話の内容を思うと胃がきしむような気がした。エレベータを降り社員用通用口の重い扉を開ける。荒川智則派遣社員だ。この扉を通る度に違和感を感じていた。