ATM

給料日の翌日の銀行のATMは混む。誘導線に従って最後尾に並ぶ。大きめの店舗なのでATMの台数には余裕がある。しかしなかなか列が進まない。ATMの前にいる人たちを見て合点がいった。5台以上もあるATMの前には最初幅広い年齢層の客が立っていた。しかししばらくすると若い奴らがさっさと引出しなり振込みなりを終えて出て行く。その隣では老人が機械を前に悪戦苦闘している。何度やっても覚えられないのだろう。そうこうしているうちにほとんどのATMの前を老人が塞いでいる状況になる。隅の方で退屈そうに立っている整理員だか警備員だかの人は助けてやる気はないらしい。僕はため息をついた。これはこの国そのものである。無数にあったはずの可能性や未来は、生き過ぎた化石たちによって閉ざされていく。どんづまりだけが目の前に開けている。やがて僕の番になる。暗証番号を忘れたので機械の前で妻に電話をかける。カードを探すのに手間取る。妻と自分のカードを入れ間違える。なんのことはない。ただ全ての者が邪魔だという現実だけが、そこにあるだけなのだ。