知人各位へ、携帯をなくしたのでしばらく連絡つきませんよろしく

私は基本的に遅刻ばかりしているが、たまには定刻に出勤することもある。そんなバレンタインも近いある寒い朝の出来事。
超満員の電車で、車両扉付近で吊革にぶら下がりながらドラクエ6をやっていた。正面の座席にはマスクをした中高年男性が鎮座ましまし。えらそうに腕なんか組んじゃって豚のくせに。周囲も豚が座っていたりぶら下がっていたりしていることに気付いた。マスクをしていてよかった。豚の匂いに耐えられる。発車したあと、隣に立っている若い女と、その正面の扉横のスペースにもたれている若い男との間の会話が漏れ聞こえていることに気付いた。男は今風のジャニーズ系な茶髪で、女は今時のチンピラ女みたいに茶髪で。男はすでにプッツンしていて、低く抑えた声で女を恫喝していた。女は少し怯えが混じるがこれまたプッツンしていて、低く抑えた声で。会話の内容をパースするに、痴話喧嘩のようだ。勝手に妄想するに男は女の浮気にも満たない行為を浮気とみなしていて許せないらしく、どうやら別れ話にまで発展してきた。俺らもう終わりじゃね?みたいな雰囲気。朝から別れ話などとなんとしょんべん臭いガキどもかとボタンを連打してドラクエの職業熟練度を蓄積していた。最近の若者は、恋愛くらしかすることのないナメクジみたいな脊椎も存在しないようなゴミタメのゴミと一緒だな。電車は豚の匂いとしょんべんの匂いが混ざり合っていよいよ嗚咽を増してくる。女はこういう。「ほんとに好きだったら離れられるわけないじゃん。」「だったら好きじゃないってことじゃん。」どうやらまだ男と別れたくない様子。昨今は男に捨てられたら行き先は風俗くらいしかない。女も必死である。どっちもやってること変わらねぇだろうに。男はもうあまりしゃべらなくなっていた。私はあまりのおかしさにくすくすと笑ってしまいそうになるのをずっとこらえていた。そんなときミレーユのあそびにんのランクがあがって「あさがえり」になった。絶妙な符号に機嫌がよくなった。最後の方はもう女もしゃべらなくなり、他の中高年の豚に混じって豚になっていた。目的駅に到着し下車すると若き男女も下車していた。二人は旅行帰りのような荷物具合だったので、これはいわゆる成田離婚みたいなものかとさらに機嫌がよくなった。とろくさい二匹の豚を足早に追い越すとき、ふと気になったことがあった。二人は性別も持っている荷物の量も違い、歩く速度には差が出るはずだが、並んで歩いていた。男か女か、どちらが歩幅を合わせているのかはわからない。人間関係、対等などありえない。円滑に進めるためには支配しかない。なんとなく、彼らは幸せになるのではないかと思った。