唐突に空腹を覚えた。こんな時間だが仕方がないと財布を手に玄関へ向かうと妻が気付いたようだ。スーパーBIGチョコを買いにコンビニへ行く旨を伝えると、リクエストした品を買って来てくれるならチョコ代も出してあげるという。プリンとパンをリクエストされた。パンの名前はミルクフランスなんとかという名前だった。最近のパンの名前はずいぶん複雑だなと思った。一つのパンの中にミルクやらフランスパンやら複数の属性が混ぜ込んであるらしい。親の欲望によって飾り立てられた子供のようにパンまでもが時代の犠牲になっているのかと少し憂えた。夜も遅いから扉や階段で音を立てないようにとの注意を受けながら部屋をあとにする。外の空気は三月にしては少し肌寒い気がしないでもなかった。きっと今外を出歩く全ての人がそう思っていることだろう。マンションを出て、下り坂を進むうちに、自然に視線が上を向いた。都会の空を見上げるのはとても楽だ。星を数える必要もない。薄くオレンジがかった雲の塊の間から月がかろうじて存在している。坂が終わっても夜空を見飽きることはなかった。どうやら星は大して重要じゃないらしい。星が一つも見えない空であろうと、それは人を惹きつけてやまない。コンビニへ到着した。20代とおぼしき男性従業員がつまらなそうに掃除機をかけていた。正解だ。外に出たってつまらない空があるだけだ。明日発売の少年ジャンプが入荷されていないことを確認しつつパンコーナーへおもむく。パンの大半は売り切れており、フランスパンの類はひとつもなかった。適当なプリンとカロリーゼロの炭酸飲料を手に取り、お菓子の棚の前に立った。棚の中ほどの空っぽのスペースが目に入った。どうやら今夜はそういう夜かなと思いながら残念な気持ちでレジへ向かおうとした。そのとき視界の端に見慣れたパッケージが写った。どうやら勘違いしていたようだ。空っぽのスペースは違う商品のものだったようだ。スーパーBIGチョコを2本手に取り、レジへ向かった。掃除機を動かすことに思ったよりも夢中なのか店員はレジに商品を置いた客に気付かない。少し待つと、レジの奥で洗い物をしていた別の男性従業員がこちらに気付いた。コンビニを出る。帰りの上り坂を歩くとき、空を見ていた。部屋に帰り、プリンを冷蔵庫に入れ、パソコンで久しぶりにメールを確認してみた。地元の友人とその元彼女からメールが来ていた。目を通した。共に、アメリカのことについて、エールの内容だった。とてもよい友人を持ったものだと心から感謝した。しばらくしてブログのコメントを見た。見たことのない映画のタイトルが書かれてあった。wikipediaで検索した。そのうちツタヤで借りて見てみるか。チョコでもかじりながら。