シャッター

全てがいい具合だって思えたから、迷わずにシャッターを切った。
今見ているこの光景だけじゃなくて、もちろん君が真ん中で、この世界の全てが写り込むようにと願って。
今も部屋には写真たてがあって、あの世界の全てをデコードできやしないで、時々窓をあける夜風の声に導かれて、思い出しているのか、思い描いているのかわからなくなるくらいに、空をみようとしたのに天井にぶつかった視線を投げやりに、雨の音を掻き消すほどには大きくない心音に耳を当てた僕に向かって、シャッターを切った。
二枚の写真を並べてみたくて、その二枚目を決めるために、シャッターを切り続けた。
今日やっと出来たんだ。少し白髪が混じるようになってしまったけれど、君の笑顔には勝てないけれど、あの時シャッターを切った僕と同じくらいに、あのときの足音が聞こえてきて、斜めからさしこむ赤い夕日と、真横から吹き付けるやわい風と、写真に残った君の色へと、辿りつけた気がしたりして。