メロンソーダ

モスバーガーで食事。メロンバーガーとサウザン野菜バーガーを頼む。席に着く。隣の隣では中国人女性のグループがぺちゃくちゃおしゃべり。俺は不機嫌になる。
バーガーが来るのをメロンソーダを飲みながら待っていると、いきなり中国人女が話しかけてくる。「わっつぃずじす」と言っている。「What is this?」なのだととっさにわからず、俺には「友達が来るからそこの席をどけ」と聞こえる。よけいに不機嫌になる。思わず「あぁ?」とキレかけに生返事をする。「わっつぃずじす」と繰り返し言っている。さすがに理解できたものの、どれのことを指しているのかさっぱりわからない。しばらくキレそうになったあと、メロンソーダのことだと悟る。「これ?これはメロンソーダ」と日本語で答えてやる。「メロンソーダ…」と復唱している。
少ししてその中国人女が席を立ちレジに向かう。戻ってくるとメロンソーダを持っていた。また友達と話し込む。ところどころメロンソーダという単語が出てくる。
どうやら旅行者のようで、ToKyoと書かれたガイドブックをやたら真剣に読んでいる。周りの客にもだれかれ構わずガイドブックを見せながら質問しまくっていた。

メロンソーダを飲みながらメロンソーダを飲んでいる中国人女をチラ見しながら思った。これは同じ釜の飯を食うというやつに近いなと。少し親近感を覚えた。
中国人女は最初俺の飲んでいる緑の液体が何かわからず興味を持ったのだろう。そしてダイレクトに質問する。すみません、とか、よろしいでしょうか、なんて前置きは一切なく、「わっつぃずじす」。そして答えてもらっても一切お礼もなし。旅行者としてマナーの欠片もない。だがメロンソーダを直後に買う。それを見て俺は不思議な気持ちになる。人助けをしたような気持ちというか。

これはtwitter的とでもいおうか、とにかくこういう前置きも返礼もないコミュニケーションは良いなと思った。思っていることを直接ぶつける。相手を選んだりしない。私たち日本人は何をするにしても聞くにしても、ちょっとすみませんから入る。そして必ずていねいにお礼をする。リアルでもネットでも変わりない。でもこういうマナーは、本質を台無しにしている。こういう類のお礼をもらって、気持ちいと思ったことは一度もない。お礼なんかより、それを教えてやったことで相手がどう変わったかが知りたいのだ。人に変化を与えるというのは一種の快楽だ。
ちょっといいですか、とか、ありがとうございました、とか。これは単なるプロトコルだが、それはコンテンツを損なうどころか、相手にも同じプロトコルを求めることにもなり、これほどコミュニケーションを阻害するものもあるまい。そして「わっつぃずじす」とは、これから覇権を握る中国人と、没落する日本人との、超えられない差なのかも。