2010.08.16 18:20

慌しい毎日の中で、チームメンバーの一人はリタイアしていった。ある日突然来なくなった。しばらくすると荷物を取りに来て、「すいません。リタイアです。」とだけ残して去っていった。その人が担当していた仕事は荒川智則に回ってきた。月日は流れ、とうとう最初の携帯が発売された。荒川智則は自分が関わったものが製品として市場に並んでいることが信じられず、嬉しく、毎日のように2chの携帯スレッドを見てニヤニヤしていた。製品を使ってくれているユーザの全てがいとおしかった。2chで誰かがバグ報告をすると、自分のところではないかとひやひやしたりした。携帯開発は続いた。次のモデルが発売され、さらにその次もと続いていった。あるときうちのチームの担当箇所で、致命的な問題が起きた。それが発生すると、二度とその携帯は使えなくなるという最強クラスのバグだった。しかも犯人はベテランさんか荒川智則だった。調査の結果、ベテランさんが犯人とわかり、バグはすぐに改修された。たった一つのバグがこんなにも大きな問題になるのかと荒川智則は思った。そのバグに遭遇したユーザは、その携帯を失ったのだ。