これは俺の物語だ

僕がそれから何をしたか、もちろんみんなには予想できてるよね?そう、僕は風俗街へと歩き出した。今思えばわざわざ衣服を交換したのもそのためだったのかもね。しばらく歩いてお目当ての場所へ到着した。僕のオキニの風俗嬢が勤めている店だ。彼女は土日出勤だ。だから僕はどうしても土曜の夜までには高知市へ到着したかったのだ。最後に思い出として、抱きしめて欲しかった。実はその一週間前にも来ているんだけど、電話で指名しようとしたら今日は休みですっていわれた。まさか指名拒否か?でもちゃんと非通知で電話したし俺だって特定できるはずがないのに。まさか何かやばい病気かなにかでもあったのか?いや、それだったらもうやめましたっていわれるだろうし。ほんとにただの休みなんだろうか、と気が気でなかった。入り口のところで靴を脱いだ。すげぇ痛かったけどなんとか我慢。歩き方がバイオハザードのゾンビみたいになる。僕は店のカウンターに行った。そしたら今日は誰か指名しますか?と聞かれたので、もちろんその子を指名した。するとすぐ入れるそうだ。よかった。指名拒否とか病気とかじゃなかったんだ。待合室で少し座っている間、ものすごい睡魔に襲われる。思えばもう24時間どころか40時間以上寝ていないのか、よくもまぁここまで持つよなぁ。すげぇよ俺。店の男性が呼びにきてくれて、奥へいって部屋に入った。ああ、彼女がいたよ。なんかもう目が閉じちゃって視界もぼやけてるけどなんとかわかる。東京へ行こう、これが終わって、今日が終わって、彼女に財布の中の6万円家までの汽車代以外全部渡して。俺が生きてられるのは君のおかげなんだ。愛情とかがなくてもいい、君に出会えて、君に抱きしめてもらって、だから俺は生きていられる。こんな地獄みたいな世の中だけど、それでも灯台は見つけられたんだ。あとはあそこへ向かって進むだけだ。何度溺れようが、サメにかじられようが、前へ、前へ。携帯番号か何かを聞きたい、これから先、僕が仕事見つけて働けるようになったら、毎月少しずつでも送金したい。僕が働いて稼ぐなんて、ありえなかった選択肢なんだ。僕は君と過ごした数十分を抱いて、東京で生きてゆける。またプログラミングができる。こんなにうれしいことはない。君が意図してないのは知ってる。僕を救おうとしてくれたわけじゃないし、僕の何かを知っているわけじゃない。精一杯本心を隠して、気持ち悪い表情を飲み込んで、それで無理矢理心を麻痺させて、そうやってサービスしてくれたんだよね。でも君が目をつぶってしゃぶってくれたように、僕も目をつぶって君の援助がしたい。僕みたいなガキじゃせいぜい一月2,3万だろうけど、せめて贈らせて欲しい。サービスしてもらうことはもう生涯ないだろうけど、会うこともないだろうけど、偽りの愛情の形だけでも残させて欲しいんだ。服を脱ぐときに足をさらすしかなくて、見てみたらすごい状態だったので、カットバンを彼女が取りにいってくれた。少し時間がかかったけどなんとかあったみたいで、カットバンをもらって貼る。少し楽になったような気がする。これでシャワーも大丈夫だろうか。で、彼女と一緒にシャワーを浴びた。浴びながら、少しするとシャワールームの外の電話が鳴り出した。変だな?この電話はサービス終了の直前くらいにしか鳴らないはずなのに。彼女に聞いてみたら気にしなくていいと言っていた。まずいんじゃないのかなと思ったけどまぁ気にしないことにした。あんまり長くなるので彼女がとりに出て行った。少し話していた。ちょっと遅いので気になって外に出ようとしたけどやっぱりやめた。彼女が戻ってきて、続きを始めてくれた。するとまた電話が鳴り出す。彼女は取る気がないようだった。でも電話は鳴り止まない。シャワーが終わって、先に出てて体を拭いててといわれた。僕は足を無理矢理持ち上げてなんとか出て行き、タオルで体を拭いていた。痛い。体中が傷だらけだ。ここまでひどくなるなんて予想してなかったな。ごめんなさい。もうちょっとちゃんとしてきたかったんだけど回復するのには半月以上かかるから、それじゃぁもう間に合わないんだ。ジュースを飲んでていいといわれたので飲んでいると彼女が出てきた。まだ電話は鳴り続いている。一体何が起こっているのか僕はさっぱり理解できなかった。頭はもうすでに意識が朦朧としていて、酒に酔うのってこんな感じかななどと考えていた。彼女はようやく電話を取った。何か話しているけど小声で聞こえない。すごい技術だ。これまでの何人かの風俗嬢もそんな感じで終わりの電話のときに相手に何かを伝達していた。どうやってるんだろう。で、ベッドに横なっていると、彼女がいきなりごめんなさいと言ってきた。僕はその瞬間、全部わかったような、何もわからないような、なんだかすごい硬いおもりが頭の中で風船みたいに膨らんでいくような鈍い痛みを感じた。足があんまり痛そうだし、店の人も言ってたけどすごく疲れているみたいに見えるから、何かあったらまずいのでサービスはできない。見せるだけだったらいいけどといわれた。ん?理解できない。別に多少足にひどい靴擦れやまめがあろうともさして支障があるとは思えないけど。それで聞いてみた。えっと、ただ抱擁してもらうだけでいいんですけど、だめですか?すると彼女は電話をとって、何か話しているようだ。聞き取れない。頭の中にさっき雀荘であがった手を思い出す。4巡でリータンピンリャンペーコーアカアカオモオモウラウラ、3巡でリーチダブトンドラ3、4巡でリーチアカアカオモウラウラウラウラ。ああ、聞き取れた。添い寝だけでいいってお客さんいってるんだけどみたいなこと言ってる。少しして電話が終わった。で、やっぱりだめだった。ごめんね。うちはええがやけどと言っている。僕はなかなか言葉が出なかったけど、ええ、帰ります、ありがとうございました、とそんな感じのことをようよう言えた。すると彼女がもう一度話してくると部屋を出て行って、僕は横になって待っていた。裸だったので、人がくるかもしれないからこれかけといてとタオルを渡された。それを適当に体にかぶせて目をつぶっていた。ああ、眠い。意識がすぐにでも消えてしまいそうだ。なんかさんざんだったなぁ。いやな最後だった。まぁ、こんなもんか。早く寝たい。ネットカフェでぐだって倒れこんで寝てしまいたい。疲れた。すごく疲れた。しばらくすると男性従業員が入ってきた。僕は別に驚きもしなかった。そして彼はこう言った。30時間以上歩き続けたあと10時間近く麻雀をしてもう心停止寸前の僕に、銀の弾丸を撃ち込んでくれた。それで死ねば楽なのに死なないからもっと苦しくなった。えと、彼はこう言った。「お客さん足が異様に臭いんですよ。それでは女の子や部屋に匂いがうつってサービスができなくなります。もうちょっときちんとして来て下さい。今日の所は代金は結構ですので、どうかお帰りください。」颯爽と来てさらりと言って颯爽と部屋を出て行った。裸の上にタオル一枚かけて横になって意識が混濁していた僕は、何がどうなっているのかさっぱりだった。なんだここは?チャップリンの世界か?なんで俺は一人人生劇場をやっているんだ?え?足が・・・臭い?異様に?自分では何にも感じないぞ。雀荘でも特に注意されなかったぞ。どうしてだ?あ?そうか?靴を脱いだからか?そういえばカウンターの従業員もなにやら不審そうな顔をしていたっけ?そらそうだ。一週間雨の中歩きまわったんだし、おまけに最後の日は素足でそのまま靴を履いて泥がまじったような水が大量に流れている山道をずっと足を引きずって歩いていたんだ。そら臭いわな。衣服を取り替えたはいいがそのことをすっかり失念していた。僕はなんとか衣服を身に着けて、さっさとこの部屋から、この建物から、この世界から去ろうと思った。ああつまらなかった。くだらない人生でしたさようなら。すると彼女が戻ってきて、ごめんねとキスをしてくれて抱きしめてくれた。十分です、ありがとうございましたと虚勢を張って僕は足を引きずりながら建物をあとにした。少し雨の降る夜の風俗街が目の前にあった。酔っ払いや客引きや女の子や、いろんな人たちの呼吸が入り乱れている。僕はポケットから取り出したプリッツロースト味をかじりながら、ぽろぽろと涙を流していた。少し歩いていると、○○さんじゃないですか!と声をかけられた。誰だ?俺に知り合いなんかいねぇぞこの街にはと思ったら、雀荘の店長だった。すごく声に張りがある。男らしい人だ。店長に話した。風俗行ったら足が臭いから帰れといわれましたって。そしたら店長はこう言ってくれた。「それは、さみしいですね」。店長、あなたいい人だよね。ありがとう。そう、さみしいです。僕は店長に、これからまた麻雀しに店行ってきます。きれいに散ってこようと思いますっていって、別れた。店長は仕事がちょうど終わったところのようだった。そのまま雀荘へ行った。今度は朝行ってぼろ負けした雀荘だ。1卓しか立っていなかった。また4人埋まってる。少し待つと一人帰ってようやく入れた。そして僕はそこでさらに数時間打ち、さらに負けた。もう額はいいたくない。そして最後のゲームのオーラス、僕はラス(ビリ)で迎えていた。そして、見事に少牌をやらかした(少牌するともう負け決定)。なんだこりゃ?もういやだ!そして雀荘をあとにし、ネカフェ目指して歩いた。まだまだ街の夜は始まったばかりだ。いくつもの男女のグループが話に花を咲かせている。彼らとは反対の方角へ、足を引きずりながら歩いた。泣きながら歩いた。途中で外国人の女性に声をかけられた。日本語がカタコトだし何を言っているのか理解できない。どのみち買う気はないし、僕は「言葉わかんね」って行って歩きだした。するとまだ話しかけてきやがる。僕はまた「わかんね」って言って、ちょうど見つけたネカフェのビルへ入った。なんとか小部屋を確保し、入るなり、横になり、そのまま眠った。翌朝目を覚まし、駅に向かい、特急に乗り、家へ帰った。さっきの記事に書いたように、今はまた、地元の自分の部屋の机の上で、カタカタキーボードを打っている。旅の意味を考えている。僕が出会ったもの、失ったもの、いろんなものが頭をかけめぐる。もうあのヘルスには行けない。出禁みたいなものだ。本番行為を強要して出金なら仕方ないが、なんで足が臭いからって、そんな、そんなに臭かったのか?もうあの子にも会えないのか。店の人は足をなおしてからまた来て下さいといってくれたけど、そんなエピソードつくっちゃったらもういけませんよ。ああ、眠い。昼間もずっと寝てたけどまだ眠気がとれない。布団はいい。僕を拒絶することもない。柔らかくて、暖かくて。応援してくれた人たちには本当に申し訳なく思う。こんな最初の最初で、まだ何にも始まっていないような段階で旅を放棄した僕は本当にどうしようもない最低野郎です。ごめんなさい。楽しみにしてくれていた人もいたかもしれないのにごめんなさい。こんなへたれを許して下さい。僕の日記が書籍化されるなどと予言までしてくれた人までいたのに、ごめんなさい。どのみち書籍化なんてありえないし、もうそうなってもする気はありませんけど、でも旅は続けられません。ごめんなさい。皮膚科に行ってアトピーを見てもらうつもりです。ちょっとひどいので。今も全身が燃えるようにかゆいのです。amosさんごめんなさい。楽しみにしてくれていたのに。本当にごめんなさい。この日記を読んでくれていた方たちみんなへ、土下座しています。5回くらい部屋の真中で土下座しましたさっき、ごめんなさい。許して下さい。pmokyはほんとにすごい、よくやりきったと思う。僕にはできなかった。僕は変われなかった。もう終わりにしようと思う。この血にまみれた肌から、この汚れきった世界から。










石田衣良の「美しい子供たち」にこんな詩が登場する。タイトルは「星の王子さま」だ。あやふやな記憶だけど。星の王子さまは宇宙を旅行していた。船が故障して小惑星に不時着した。その惑星はとても小さくて王子様の足でもすぐに一周できてしまう。でもその星には何もない。本当に何もないんだ。王子様はなんとか助けを呼ぼうと考える。でも本当に何もないから救難信号も送れない。船は完全に故障している。船を捜索して、ようやく王子様は脱出のきっかけになるものを発見する。何かの燃料だ。これを使って何かに火をつけて燃やせば、救難信号の変わりになる。王子様はしかし気付く。この星には何もない。この船は特殊金属だから燃えるわけがない。しばらく考えて王子様は気付く。そうだ、自分を燃やせばいい。人間だから火をつけることができる。そして王子様は頭から燃料をかぶり、自らに着火した。王子様は燃えた。自分はここにいるんだと、燃えつづけた。王子様はこわくなんてなかった。炎はあつくなんてなかった。痛くなんてなかった。そして、その星にはまた、誰もいなくなった。


僕は昨日、新しい携帯を手に入れた。安心サービスとかいうのがあって、買って一年以内なら安く交換できるようだ。本体はすでにリュックと一緒に捨てちゃったけど、なんとか本体5000円と充電器1000円で入手できた。たくさん浪費したが、まだ金は残っている。台風はあと数日で消え去る。そうするとしばらくは晴れの日が続く。僕も燃やすよ。僕には何にもないから、知識も技術も経験も、愛情も生きる理由も、何もないから、だから僕を燃やすよ。たとえ何にもなくったって、まだ自分がある。たとえ溶けて蒸発して消えてしまってもいい。誰かが見つけてくれるかもしれない。誰かが見てくれるかもしれない。だから燃やすんだ。あつくなんてない、痛くなんてない、さみしくなんてない。


次は高松だ。準備が出来たら高知駅まで列車で行く。そっからまた再スタートだ。ほんの数日だったけど、いろんな人に出会った。みんながんばってた。僕なんかよりよっぽどがんばってた。だから僕もがんばる。たとえ燃え尽きても、消し炭くらい残してやろうと思う。