地元で転職して一ヶ月が過ぎ、初給料が振り込まれたので、記念に妻と食事にでも行こうと誘ったが断られ、何故か父親がついていて、書き忘れた日報を書くために往復一時間かけて会社へ戻り、マッポー的サーヴィス残業組の先輩たちとライトトークしたあと飲み屋に行った。口下手の父親と話は盛り上がらず、そこそこ旨い料理に舌鼓を打ちながら、頭の中をグルグル回るのは東京での仕事の日々。記憶の中の渋谷の風景は放射能っぽい黄色に染まり、気泡のように出会った人々の顔が浮かぶ。誰一人まともに別れの挨拶もできなかった。ケジメをつけそびれた寂寞感と先行きの不透明さに揺らされ、やけに焼酎が身に染みた。こういう酒の飲み方ができるようになったのは明瞭に成長であって、もう言い訳も退路もない年齢に達したのだと言い訳をする。代行運転で帰宅し部屋に行くと娘はとっくに寝ており、ゴホゴホと咳き込んだのを気にかけてそばに寄り、背中をさするかどうか迷っている。酩酊した目に映るのはその寝顔。一切の遠慮なく伸ばされた手足。その閉じた瞳。寝苦しそうにゴロゴロする。ふいにこれまで感じたことのない感情が湧き出す。